公会計改革

公会計改革について

 私が町田市の市会議員になって、市の財政状態を調べようとしたところ、民間企業では常識のバランスシート(貸借対照表)が市にはないことに気づきました。1994年のことでした。

 バランスシートというのは、企業の資産(財産)と債務(借金)を対照させた表で、企業経営に欠くことのできない重要な書類です。バランスシートで、資産から債務を引いたものが純資産といって、株主の持分です。しかし債務が資産より多ければ、債務超過といって倒産してもおかしくない財務状態です。

 ところが町田市だけでなく、どこの自治体にも、いや国にすらも、バランスシートはありませんでした。国の借金の主なものは国債ですが、国はそのころ247兆円の国債残高を抱えていました。(今は約780兆円と言われています。国債以外の借金も加えると1,000兆円を軽く超えます。)バランスシートがないと、この借金に見合う資産があるのかどうかすら分からないということにほかなりません。

 国や地方自治体にはなぜバランスシートがないのでしょうか。その答えは会計制度にあります。民間企業は複式簿記・発生主義会計という精緻な会計制度を義務付けられているのに対して、国や地方自治体の会計、つまり公会計は単式簿記・現金主義会計という、いわば大福帳方式の会計制度なのです。

 私たち税理士は、納税者の側に立って、正しい納税のお手伝いをしています。そうして収めた税が正しく使われているのかをも、納税者の目線で監視することも税理士の責務だと思います。しかしその税を使う側の国や地方自治体の会計制度がいい加減なものでは困ります。公会計にも民間企業並みの会計制度を導入し、誰が見てもわかるものに、国際的にも通用するものにしてほしい。そんな思いを朝日新聞の「論壇」(1997年5月15日)に投稿しました。

 大きな反響がありました。仲間の税理士はもちろん、全国各地の地方議員からも賛成の意見や問い合わせが相次ぎました。学者の先生方からも協力をいただきました。そういう人たちで「公会計を考える会」(のちに「公会計改革を進める会」と改称)を立ち上げ、私がその代表に就きました。また、公会計改革の必要性を「これからの公会計」という本にまとめ、出版しました。

 「公会計を考える会」では何度かシンポジウムを重ねました。シンポジウムには税理士や地方議員だけでなく、自民党、民主党など超党派の国会議員も参加してくださいました。当時すでにこの問題に気づいてバランスシート作成を模索していた先進的な自治体(神奈川県藤沢市)の職員からも取り組みをお話いただきました。

 東京都町田市の市会議員だった私は、市議会の一般質問で公会計制度の改革を訴えましたが、市の担当者は戸惑うばかりで議論は噛み合いませんでした。それもそのはず、市の職員は法律で決められた単式簿記・現金主義会計でずっと仕事をしてきているのです。お役人にとって法律に従うことは絶対です。地方自治を統括する自治省(現・総務省)にも申し入れを行いましたが、やはり役所の反応は冷たいものでした。

 地方から改革の声をあげることも大切ですが、改革を実現するには国の法律を変えなければなりません。そのためには国政の場で改革を主導する必要があります。そう思った私は、民主党の公認を得て、2000年に東京都第8区(杉並区)から衆議院選挙に立候補しました。落下傘候補という不利な条件で、しかも戦う相手は自民党現職の石原伸晃氏という大物でした。必死の選挙戦の結果、7万7千票あまりの投票をいただきましたが惜敗の次点。重複立候補した東京比例区でも僅かな差で次点でした。翌年の参院選でも比例区から立ちましたが国政への進出は叶いませんでした。

 しかし、その後も「公会計改革を進める会」による地道な活動、各地方議員の方々による働きかけなどから、公会計にもバランスシートが必要との認識は徐々に高まり、東京都をはじめ地方自治体がさまざまな工夫によりバランスシートを作成するようになりました。以前は冷たかった総務省も「総務省方式」というバランスシート等財務諸表作成の指針を公表するようになりました。現在ではほとんどの自治体がバランスシートを作成しています。また、財務省も国のバランスシートを公表するようになりました。ちなみに、国のバランスシートによりますと、2013年(平成25年)3月31日現在で国の総資産は640.2兆円、これに対して負債は1,117.2兆円で、差引き477.0兆円の債務超過となっています。

 国も、地方自治体の大部分もバランスシートなど財務諸表を作るようになりました。では、これで私たちの求めてきた公会計改革は実現したのでしょうか。実はそうではありません。なぜなら、今でも公会計の基本は単式簿記・現金主義会計のままなのです。単式簿記では本来、バランスシートを作ることはできません。ですから現在作られているバランスシートは、単式簿記・現金主義会計のデータにあとから手を加えることにより作成された、複式簿記・発生主義会計に似せたバランスシートなのです。それに作り方も、「基準モデル」「旧総務省方式」「総務省方式改訂モデル」それに東京都、大阪府などの独自方式が混在しています。

 私たちは、公会計を根本的に複式簿記・発生主義会計にすることを法律で明記し、方式も統一することにより、地方自治体の財政運営の健全化、透明化を推進することを求めています。私たちの所属する東京税理士政治連盟も、「平成27年度税制改正に関する要望書」の中で、個別要望項目の大きな3項目の一つに「国及び地方公共団体の会計制度改革」を掲げています。改革はまだまだ続けていかなければなりません。